大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和25年(う)454号 判決

被告人

山本宏子

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人十川寛之助第五点について。

(イ)  原判決がその判示第一の事実を認定する証拠として天見福子の司法警察官に対する第一回乃至第四回各供述調書を引用していることは所論のとおりである。そして原審第一回公判調書によると検察官は証拠として右第一、二、三、四回各供述調書の取調を請求し、裁判長は陪席裁判官と合議の上これを証拠として受理する旨の決定を宣し、その証拠調をなした趣旨の記載があり、そのうち三、四の二字はその墨色、筆勢から見て改変せられた形跡が認められるけれども元来刑事訴訟規則第五九条は訓示的規定であつて、これに反して作られた書類を当然無効とする趣旨ではない。従つて右の規定に反して改変された文字であつても作成権限ある者によつて真実作成せられたものと認められる場合にはこれを有効視するを妨げないと解する今、記録を調査するに、右第一回公判調書の末尾には検察官から提出せられた証拠書類、殊に前記天見福子の司法警察官に対する第一回乃至第四回各供述調書が提出の順序に従つて編綴せられていて、右の改変せられた文字による記載に符合しているから、同公判調書における所論文字の改変は作成者が誤記を訂正する意味においてなされたものであることが認められるからその記載はなお有効であり、これにより右第三回及び第四回各供述調書につき検察官から証拠調の請求があり、裁判所においてこれを採用する旨の決定を宣し事実上提出せられた上所定の証拠調が行われたことを認め得るのである。従つて、これを証拠に引用した原判決は所論のように虚無の証拠若しくは証拠とならないものを証拠とした違法を犯したものということができない。論旨は理由がない。

同第六点について。

(ロ)  刑事訴訟法第二九六条において検察官がいわゆる冐頭陳述を行うに際しては、証拠としてその取調を請求する意思のない資料に基いて裁判所に事件について偏見又は予断を生ぜしめる虞のある事項を述べることを禁止している趣旨に徴し検察官が被告人を質問するに際し証拠として取調を求める意思のない資料に基いてかかる事項の質問をするの不法であることは勿論であつて、原審第一回公判調書によると、同公判において検察官が被告人に対し未だ証拠として採用せられていない焼残りの紙片を示して質問しながら、その後においても右紙片について証拠調の請求をしなかつたことは所論のとおりであるが、検察官においては被告人に対しその紙片について弁解を求めた上証拠調を請求するかどうかを決めようとして被告人に質問したところ、被告人が右紙片について記憶がない旨供述したので、証拠調の請求をなさなかつたものと推察せられるから、所論のように検察官において右紙片を証拠として取調を求める意思なくして被告人に質問したということができないとともに検察官の右質問は裁判長が被告人に事件についての弁解を求め被告人が公訴事実を認めた後のことに係りこれによつて裁判所に偏見又は予断を生ぜしめる虞れがあるものとは認められないから被告人の供述の一部に所論のような部分を含んでいるからとて被告人の原審公判廷における供述が証拠として無効であるとはいえない。次に前記第一回公判調書によると同公判において検察官から後に提出する昭和二四年六月一三日附同月一四日附及び同月二〇日附各司法警察員の織物発見報告と題する書面添付の各写真を順次示して被告人に質問し、その後司法警察員の臟品発見報告又は臟品並びに兇器発見報告と題する書面三通の証拠調の請求をなし、裁判長はこれを証拠として受理する旨の決定を宣し、検察官は各証拠書類を朗読した趣旨が記載せられていることは所論のとおりである。しかし同公判調書の後には、いずれも末尾に写真が添付せられた司法警察員作成の昭和二四年六月一三日附臟品発見報告、同月一四日附臟品並びに兇器発見報告及び同月二〇日附臟品発見報告と各題する書面が編綴せられてあつて、検察官が被告人に示した写真が添付せられている証拠書類と後に証拠調の請求をなした証拠書類とはその標題が多少相違しているけれども、その作成の日附及び標題の相違している程度より見て右証拠書類はいずれも検察官が取調を請求した書類そのものに外ならないことが明かである。従つてこの点に関する所論も亦失当であつて本論旨はいずれも理由がない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例